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笹幸恵
2021.8.1 13:05日々の出来事

映画『アウシュヴィッツ・レポート』

映画『アウシュヴィッツ・レポート』を観てきた。
ユダヤ系スロバキア人の二人が命がけで収容所を脱出し、
赤十字によって救出され、アウシュヴィッツの
すさまじい実情をレポートとして提出する・・・
というストーリー。

ナチスの残虐ぶりは、囚人を監視する
ラウスマン伍長によって体現されている。
ここまで人は狂うことができる、
自分の中にもラウスマンはいる、
だから直視せざるを得ない。
彼とて、ハンナ・アーレントのいう
「凡庸な悪」のひとりに過ぎないのだ。

対照的に描かれるのが、脱走を助けたとして
酷寒の中で立たされ続け、ひたすらそれに耐える囚人たち。
脱走した仲間を助けたいなどというヒューマニズムではない。
彼らはこの惨状を世に伝え、収容所もろとも爆破するよう
訴えるため、脱走者二人にそれを託したのだ。

どうせ自分たちは死ぬ。
みすみす死んでたまるか。
ここにいるナチスも全員、道連れにしてやる!
そんな強固な意思がある。

「助けてくれ」ではない。
「目の前のナチスを殲滅しろ」なのだ。
身体はふるえ、目はうつろでも、彼らは戦っている。

セリフは多くない。
もうちょっと解説とか入れないと、日本人には
ちょっと理解しづらいんじゃないかと思うほど。
一方、脱走している間のカメラワークがすごい。
視点が次々に変化、天地左右もぐるぐる変わって息を呑む。
意識が朦朧としているあたりの表現も面白かったな。

赤十字の人は、脱走者二人の話をなかなか信じることができない。
戸惑いと、半信半疑の表情がこれまた見事。
自分の誤った認識を改めるのには、相当の勇気がいる。
主人公の放ったひと言が印象的だった。

「大事なのは、これを知った後、何をするかだ」


ホロコーストを取り上げたのは、
現在のスロバキアで極右政党が議席を獲得するなど、
過激な主張が増えてきていることへ警鐘を鳴らす意味も
あるという。
最後の最後、欧米の政治家たちの発言も興味深い。

人は、簡単に狂う。
正義や、人道や、誇りや、恐怖のもとで。
笹幸恵

昭和49年、神奈川県生まれ。ジャーナリスト。大妻女子大学短期大学部卒業後、出版社の編集記者を経て、平成13年にフリーとなる。国内外の戦争遺跡巡りや、戦場となった地への慰霊巡拝などを続け、大東亜戦争をテーマにした記事や書籍を発表。現在は、戦友会である「全国ソロモン会」常任理事を務める。戦争経験者の講演会を中心とする近現代史研究会(PandA会)主宰。大妻女子大学非常勤講師。國學院大學大学院文学研究科博士前期課程修了(歴史学修士)。著書に『女ひとり玉砕の島を行く』(文藝春秋)、『「白紙召集」で散る-軍属たちのガダルカナル戦記』(新潮社)、『「日本男児」という生き方』(草思社)、『沖縄戦 二十四歳の大隊長』(学研パブリッシング)など。

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